クジラ構文の真実

受験生の中で比較の構文の多さに悩んでいる人は多いでしょう。特に、その構文の多くが似たような形をしており、moreやless、thanなどを見てあきらめてしまう人も多いかもしれません。今日は、その比較の構文のうち、クジラ構文について、明らかに受験英語の訳し方で「?」と感じるので、異議を唱えたいと思います。

クジラ構文とは?

一般的にクジラ構文とは、A…no more B than C「CがBでないのと同様に、AはBではない」という形をした構文のことを指します。一部、こんな英語使われないよ、と主張する人もいるようですが、決してそんなことはありません。ごく普通に使うと思います。

特に以下のような文が有名なので、クジラ構文と呼ばれます。

example
(1) A whale is no more a fish than a horse is
「馬が魚でないのと同様に、クジラも魚ではない」

多くの人がこの文を暗記していると思います。

クジラ構文の基本構造

クジラ構文はA…no more B than Cの形で表しますが、まず比較級moreの前にあるnoは「差がない」ことを意味するnoです。たしかに、比較級の前には倍数表現やがよくきます。これは皆さんがご存知のmuchやby far以外にも、実は倍数表現を比較級の前に置くことができますし、具体的な差を表す言葉もbyを使わずに比較級の前に直接持ってきて表すことも可能です。

example

(2) She is much younger than me.
「彼女は私よりずっと若い」

(3) This car is three times faster than that one.
「この車はあの車より3倍速い。」

(4) She is three inches taller than him.
「彼女は彼より3インチ背が高い。」

今回のクジラ構文ではno more のnoは「差がない」、no moreなので、「more ではない」、つまり「同じぐらい」ということを表しています。
それを念頭に入れて再び、(1)に戻りましょう。

example
(1) A whale is no more a fish than a horse is
「馬が魚でないのと同様に、クジラも魚ではない」

最後はisで終わっていますが、この後ろに省略されているのは a fishであり、a horse is fishが絶対に偽なのだから、a whale is a fishも成り立たない。なので、no more A than Bでは、後半で明らかな否定をだして、前半を否定しています。そして、この文章から「CがBでないのと同様に、AはBではない」と説明されることが多いです。ここで多くの受験生が悩むのは、「ない」がどこから来たのか、ということです。これに関しては様々な説明がなされています。

ちなみに、これの逆バージョンA no less B than Cもあり、これは「CがBであるのと同様に、AはBだ」という意味で、こちらは完全に肯定のバージョンになります。

example
(5) She is no less a president than he is.

受験の世界では、こういった説明がなされています。

A… no more B than Cに否定の意味はない。

しかしよく考えてみると、A…no more B than C の構文は、「差がない」と言っているだけで、完全に否定の意味があるとは思えません。

example
(6) She is no more capable of fixing the computer than he is.

これを受験英語風に訳すと、「彼がパソコンを直せないとの同様に、彼女も直せない」つまり、“He is not capable of fixing the computer. She is not, either.” となりますが、これは間違いです。「彼がパソコンを直せる度合いと彼女がパソコンを直せる度合いに差はない」と言っているだけで、He is not capable of fixing the computerもShe is not capable of fixing the computerとも言っていません。もちろん、以前の文脈で「彼がパソコンを直せない」と言っている場合、こういった解釈もできますが、文脈によれば「彼がパソコンを直せる」と言っている場合は逆の解釈、つまり「彼もパソコンを直せるし、彼女も直せる」”He is capable of fixing the computer. She is, too.” の解釈も可能です。

また、よく考えると明らかに否定で訳すとおかしいA…no more B than C も多く作ることができます。

example
(7) Prime Minister Abe is no more a leader than President Trump is.

さらに、その逆 A..no less B than Cも「差がない」と言っているだけです。これも「CがBであるのと同様に、AはBだ」と必ず肯定の意味合いが含まれるわけではありません。となれば、A no more B than CとA is no less B than Cの違いはほぼなく、2つとも「差がない」ということを言っているだけの文である、ということになります。